農薬散布の成否を左右する最大の要因は「散布する人の技術」より「散布タイミングの選択」です。同じ農薬・同じ希釈倍率でも、条件次第で効果が倍以上変わり、誤れば薬害が生じます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 気温による影響
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【低温期(10℃未満)】
・殺虫剤の効果が低下する。害虫の代謝が落ちているため薬剤の吸収が遅く、接触型殺虫剤では十分な効果が得られないことがある
・殺菌剤は予防効果を発揮するが、菌の活動自体が低下しているため過散布になりやすい
・乳剤が乳化しにくくなることがある。使用前に室温(15℃以上)に戻してから希釈する
・石灰硫黄合剤は風が穏やかで晴れた日に散布。気温は5℃以上が目安。低温でも殺卵効果はある
・フロアブルが低温で粘度上昇し、ノズルが詰まりやすくなる
【適温期(15〜25℃)】
・ほぼすべての農薬が最も安定した効果を発揮する
・薬液の乾燥速度も適切で、葉面への浸透と定着がバランスよく進む
・この温度帯でかつ湿度50〜70%の条件が理想的
【高温期(30℃以上)】
・乳剤系農薬は薬害リスクが急上昇する。有機溶媒(油)が高温で揮発速度を増し、植物のクチクラに浸透しすぎる
・フロアブルも懸濁(けんだく)が不安定になりやすい
・展着剤(特にシリコーン系・エステル型)を加えると薬害リスクがさらに高まる
・殺菌剤では薬害が出にくいが、高温時の蒸散が速すぎて効果が十分に発揮されない場合がある
・気温35℃以上での散布は原則禁止とし、散布を翌日の早朝に延期する
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 時間帯の選択
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【最良:早朝(日の出〜9時頃)】
・気温が一日の最低値付近で安定している
・無風または微風の日が多く、薬液の飛散が少ない
・露や朝の高湿度により葉面が湿っており、薬液の付着・展開が良好
・日中の急激な気温上昇前に薬液が乾燥・定着できる
・夏の高温期でも早朝なら25℃以下であることが多い
→ 年間を通じて最も推奨される散布時間帯
【良:夕方(16時〜日没前)】
・気温が下がり始めており、高温時間帯を避けられる
・ただし薬液が夜間の露や結露で洗い流される可能性がある
・殺菌剤よりも殺虫剤の方が夕方散布と相性が良い(ガ類・ハマキムシなど夕方活動する害虫に有効)
・梅雨時は夕立のリスクがあるため、天気予報を確認してから散布
【避けるべき:日中(10〜15時)】
・気温・日射量ともに最大値付近で薬害リスクが最も高い
・特に夏季(6〜9月)の日中散布は植物の蒸散も活発で、薬液濃度が葉面で急上昇しやすい
・乳剤・フロアブルの使用は避ける。もし使用する場合は希釈倍率を高め(薄め)に設定する
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 湿度の影響
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【高湿度(70%以上)】
・薬液の乾燥が遅く、葉面への浸透時間が長くなるため浸透移行型の薬剤(EBI剤、ベンゾイミダゾール系など)は効果が高まる
・ただし病原菌も活性化しやすいため、散布後に湿度が長時間続く場合は灰色かび病などが悪化することもある
・殺菌剤は高湿度時(特に梅雨時期)の予防散布が最も重要
【低湿度(40%未満)】
・薬液が急速に乾燥し、浸透移行型の薬剤では十分な吸収前に乾いてしまうことがある
・エステル型展着剤を使用すると浸透促進できるが、薬害リスクも同時に高まる
・葉面散布より株元散布・灌注による根からの吸収が有効
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 風の影響
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【散布可能な目安】
・風速2m/s(秒速2m)以下が目安。葉がわずかに揺れる程度
・風速3m/s以上では薬液の飛散が増大し、隣地や水系への汚染リスクが生じる
【風のある日の判断基準】
・木の葉が常に揺れている → 散布中止
・腕を伸ばしたときに風圧を感じる → 散布中止
・煙が水平に流れる → 散布中止
→ 翌日の早朝に延期する
【対策】
・風下への散布は向かい風で自分が薬液を浴びる原因にもなる
・どうしても散布が必要な場合は、ノズルを植物に近づけ、低圧・大粒の散布で飛散を抑える
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 雨の前後
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【散布後の雨による流亡の目安】
・散布直後〜30分:雨が降ったら効果がほぼない。散布しなおし
・散布後30分〜2時間:薬液が半乾燥状態。小雨なら50〜70%の効果は残る
・散布後2〜4時間(十分乾燥後):通常の雨(10〜20mm/h程度)なら耐雨性のある薬剤では7割以上の効果が維持される
→ 展着剤を加えた場合や、耐雨性の高いカチオン系展着剤使用時は上記より耐雨性が向上する
【雨の前の散布】
・散布後4時間以内に25mm以上の降雨が予想される場合は散布を延期する
・天気予報の「降水確率40%以上」はリスクあり。急変に備え短時間で散布できる範囲に絞る
【雨の後の散布】
・雨が上がった直後は植物が濡れており、展着剤なしでは薬液が流れやすい
・葉面の水分が蒸発してから(通常1〜2時間後)散布する
・雨後の高湿度環境では病原菌が活性化しているため、予防殺菌剤の散布タイミングとして非常に有効
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 季節別・散布条件チェックリスト
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【冬(12〜2月)】
☑ 気温10℃以上の日を選ぶ(石灰硫黄合剤は5℃以上でも使用可)
☑ 凍結リスクがある夜間は薬液が葉面で凍るため夕方以降の散布を避ける
☑ 乳剤は温めてから使用する
【春(3〜5月)】
☑ 新芽展開中は薬害が出やすい。濃度は規定の上限(希釈倍率高め)で使用
☑ 花期は花弁への散布を避ける(変色・落花の原因)
☑ 天候が変わりやすいため、散布前に翌日の天気予報を確認
【梅雨(6〜7月上旬)】
☑ 晴れ間・雨上がりの翌朝早朝が最も効果的な散布タイミング
☑ 殺菌剤は雨が続く前(降雨2〜3時間前まで)に予防散布
☑ 気温が高い日は朝7時頃に完了できるよう準備
【盛夏(7月〜9月)】
☑ 35℃以上の日は散布禁止。翌日早朝に延期
☑ 乳剤は散布しない。水和剤・フロアブル・水溶剤を優先
☑ 展着剤の希釈倍率を通常の2倍(薄め)にする
【秋(10〜11月)】
☑ 気温が下がっても害虫は活動継続。15℃以上の日に殺虫剤散布
☑ 最低気温が10℃を下回るようになったら冬季防除の準備
☑ 乾燥しやすい時期。散布後3日程度は雨がない日を選ぶ
読み込み中...

農薬情報を読み込んでいます...

